犬(ボーダーコリー)の遺伝疾患とその実態

この記事は、犬の遺伝疾患(遺伝病)とその検査実態などについて一般のお客様の理解を深めて頂くきっかけとなることを願って、一ブリーダー視点で書き記したものです。

ボーダーコリーが数ある犬種の中でも、遺伝性疾患が比較的多いと言うことをご存知でしょうか。
その理由としては、長い歴史の中で、ボーダーコリーは地方の牧場で家畜を守る役目を専門的にこなしてきて、農家の使役犬としてあまり一般の目に触れることなく過ごしてきたせいとも言われています。
つまり、犬質向上を目的とするブリーダーによる繁殖ではなく、農家による実益のみを追求した繁殖が行われてきたということです。
そのため、現在世界中で日々解明が進む新たな病気の原因因子の検査を行うことで、防ぐことのできる病気を防ぐ活動が進んでいます。

ボーダーコリーの主要な遺伝性疾患

CL セロイドリポフスチン症

長く生きられない致死性の病気。ペットショップ等でも検査している場合がある。

CEA コリー眼異常

コリーアイと呼ばれる、目の網膜などに異常をきたす病気。症状レベルが5つあり、3以上で視力障害が発生する。アフェクテッドでも発症率は低い。

TNS 遺伝性好中球減少症

好中球(白血球)が異常に減少し、免疫低下状態が続く病気。感染症にかかりやすくなる。

MDR1 イベルメクチン感受性 多剤耐性遺伝子

寄生虫の駆虫などに用いられる「イベルメクチン」という薬に対しての副作用が起きやすくなる遺伝子変異が起こった状態。コリー系の犬に多く、遺伝子変異が原因であることが判明するまではコリー系の犬種に対する投与が禁忌とされていた。

DM 変性性脊髄症

世界的に発症が増えている病気で、大型犬に多い。日本ではコーギーに非常に多く、高齢時に発症から3年程度をかけてゆっくり進行して死に至る。痛みを伴わないのが特徴。

ロッシュパピーの遺伝性疾患発生0

現在、ロッシュが依頼している検査機関のボーダーコリーが対象となっている遺伝性疾患は、上記を含めて11の検査項目として検査が可能となっています。
ロッシュでは、親犬や親犬候補となる全ての犬にこの全ての項目の検査を実施し、その全ての疾患項目の結果情報を結果の良し悪しに関わらず公開しています。同時に、現時点で遺伝疾患の子犬への発症リスクをすべて0に抑えています。これは誇れることであり、大変素晴らしいことであると自負しています。

DNAテスト:オールクリアの難しさ

ただ、現時点でこれを実現するには多大なコストに加え、運の要素も加わってきます。
その理由としては日本においてDNA検査がまだまだ浸透しきっておらず、世界的にもまだまだな状況です。さらには検査が可能な全ての項目の検査を実施しているブリーダーはほんの一握りとなっています。

また、その中でもブリーディングを行う上で有益となる情報を得るため、検査自体は全項目を行なっているものの、知識の浅い一般の方からの誤解を恐れて「Clear」の疾患因子だけを公表しているブリーダーも少なくありません。(アフェクテッドやキャリアの親犬があたかも危険な犬かのように誤解されることを恐れて)
さらには比較的軽微な疾患の原因因子は持っているものの、その他の点で優れているといった場合も多くあります。


仮にすごく良い子犬であるが、遺伝子検査をしていない場合、検査結果が出るまでの約1ヶ月間、その子犬を他の人には売らずに待って居てくれれば何も問題はないのですが、それに応じるブリーダーは少ないと思います。子犬の成長はとても早いため、1ヶ月間の機会損失は余程のことが無い限り応じる理由がありませんから。また、そこまで対応する気のあるブリーダーはそもそも自ら遺伝子検査を積極的に進めているほうが自然です。

そのため、新しい親犬を仕入れる場合は検査項目が不十分、又は検査が行われていない犬の中から選ぶ事を余儀なくされるケースが多いのが現状です。

その後検査項目に異常が見つかった子がいた場合、当犬舎内で対象因子がクリアの相手と交配を行う事でキャリアまたはクリアの子犬を作出し、そのさらに次世代でその子に再び対象因子がクリアの相手をクロスし、同胎子全頭のDNA検査を行い、クリアの子を次世代犬として犬舎へ残留させます。そうしてようやく1つの項目のクリア化が実現します。

こうして将来的にさらに交配を重ねて、その時点での全項目オールクリアを目指して行くことになります。

⚠️注意

たとえ検査可能な全ての疾患がオールクリアであったとしても、常に変異するのが遺伝子です。癌細胞等と同様に、先天性、後天性関わらずいつどのように遺伝子が変異するかは予測不能でかつ、それは個性を形作るものです。そういった意味での100%を保証することは不可能となっています。

キャリアとアフェクテッドの正しい理解

まず、キャリアやアフェクテッドと言った表現は決して遺伝疾患の発症リスクだけを指すものではなく、例えば皮毛のカラーなどを決定するカラー因子にも同じ表現が使われます。
対象の因子(例えばロングコート被毛)に対して、単にヘテロ接合をキャリア、ホモ接合をアフェクテッドと呼ぶ場合です。アフェクテッドの場合その子はロングコートの被毛になります。

親から子へと何かが遺伝する際、両親から受け継ぐ2本で1対となった常染色体のうち、両方に問題(変異)があった場合にのみ遺伝する「劣性遺伝」と、常染色体の片方に問題(変異)が出ただけで子に遺伝してしまう優性遺伝が有ります。優性遺伝の疾患については検査をせずとも発見が容易なため、殆んどいません。(親や子を見ただけでおかしい事に気づき、自然に繁殖ラインから外されてきたため)

キャリアとは

常染色体2本のうち、片方にのみ変異がある状態を「キャリア」と言い、その子は変異遺伝子を保因している状態であるものの、もう片方の染色体は正常な為、必要なタンパク質合成は正常な方の染色体が行える為、何も問題は発生しません。健康な状態です。

アフェクテッドとは

一方、常染色体2本両方に変異がある状態が「アフェクテッド」です。この場合、細胞内の両方の染色体が正常なタンパク質合成ができない状態で、疾患の症状が目に見える形で表に出てこれる状態になります。「出てこれる状態」と表現したのは、その疾患によってアフェクテッドでも実際に発症する確率が大きく異なるためです。
つまりアフェクテッドだからといって、100%症状が発症するものではありません。
例えば当犬舎のALANの場合、コリーアイ(CEA)がアフェクテッドとなっていますが、視覚障害もなく、眼検診でも発症なしとの診断が出ています。

ただし、発症する可能性が出てくる以上、特定の疾患において「アフェクテッド」が出る犬は決して作り出すべきではありませんし、遺伝子検査さえ行っていれば確実に防げるものです。

参考情報:JCK|遺伝子疾患について考えよう!

ロッシュの遺伝子検査に対する見解

「動物倫理に反する」等として疾患の遺伝子検査自体に反対するペット関連事業者も存在します。
ですが彼らの主張は「犬の本来の繁殖する権利」であったり「まだ見ぬ子犬がこの世に生を受ける権利」等です。その倫理観は人間では議論されるべきと感じる一方、現時点で私たちを含め彼らが犬を人間以下の「犬」としてしか扱っていない以上、違和感のあるものです。
犬に本当の意味で人間同様の権利を認めてそれを実行しているような場合でない限り、そういった主張は成り立たないのではと思います。

ブリーディングを行う上で考慮すべき点は犬種スタンダードをはじめ遺伝疾患意外にも当然数多くありますが、やはり科学的に防ぐ事ができる「苦痛」については排除していく努力をする事が大前提であるべきと私たちは考えています。
ただし、その中でも比較的軽微な疾患(命に関わらず、かつ病院に通う必要もないもの)については、犬質や目的への適正などと天秤にかけてその都度交配計画を組み、時間をかけて最終的にクリアを作出することを目指すのが現実的かつ最良の結果へとつながるものと考えています。

ロッシュケネルの犬は超健康。しかし課題も

当犬舎のALANについては、彼の出身の犬舎ではCLの単項目しか遺伝子検査を行なっておらず、ロッシュにきてから全項目 検査を行った結果、コリーアイ(CEA)のアフェクテッドが判明しました。その際、繁殖ラインに入れるべきかどうかかなりの期間悩みましたが、性格が良い事、子供との相性が抜群な事、落ち着いた気質である事、ALAN以外の犬は全てCEAがクリアである事、これらを理由に犬質を優先して親犬として活躍してもらう事にしました。

したがって、ALANのパピーは皆、「コリーアイ(CEA)のキャリア」となります。先にも述べた通り、ペットとしてはキャリアでなんら問題はない健康体ですが、繁殖犬となるとキャリアのままでは今後の交配計画に影響を及ぼします。そのため次の代でクリア化を進めるため、当初計画にはありませんでしたが、幸運なことにその後すぐにCEAがクリアな将来の父親として”J”を仲間に迎え入れる事ができました。

2021年時点で残念ながら、私たちの子犬は遺伝性疾患を0にすることは実現しているものの、それに加えて犬種スタンダード(ドッグショーで入賞できる要素)を充実に再現するといった域には達しておりません。
これらを実現するためには、全てにおいて高い水準を維持しておられる日本を含む世界中のトップブリーダーの方々からの協力を得られない事には非常に困難な道のりであり、そうした方々から交配犬を提供して頂けるまでに信頼を得るため、その日が来ることを信じて今できうる限りのベストを尽くしています。

それらが困難なことから、優秀な血統を持つ犬舎へ一般人を装って購入する業者や、更には血統書を偽造または改ざんするようなケースも見聞きします。
「所詮は犬」と言った低い意識から起こる行動に思えますが、私たちは決してそのような手段は取りません。そこまでに至った人の努力の成果を、法整備がないことをいいことに事にコソコソと楽に手に入れるような事は褒められたことではありませんし、長期的に見て自分たちのためにもなりません。単に犬であろうが一般のビジネスであろうが、長期にわたって持続していくためには人同士の信頼関係が全てであると考えています。

ロッシュで子犬をお迎えいただいたお客様が将来再び当犬舎を訪れた際、きっと驚かれることを期待して、犬質向上に努力して参ります。

子犬を購入する時は

良い犬の定義は人によって様々で、私たちブリーダーから見た良い犬と、一般の方々から見た良い犬は必ずしも一致するものではありません。
犬に何を求めるかと言った価値観も人それぞれですので、最終的には飼育環境や親犬の気質といった、ブリーダーから購入するからこそ確認できる部分含め、そのブリーダーと価値観を共有できるかどうかをお客様ご自身で確かめる事が重要ではないでしょうか。

また、お客様のライフスタイルや家族構成などもできるだけ詳細にブリーダーに相談することで、上記のギャップを埋める事につながり、ブリーダー側も本当にお客様に最適な子犬をお勧めする事ができるようになるかと思います。

ロッシュの子犬を気に入っていただけた際には各子犬の良し悪し含め、全てお伝えいたします。是非ともお問い合わせください。

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